税務調査時の守秘義務(最高裁平成9年10月17日判決)

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税務調査で税務署職員から質問を受けたとき、

「それは守秘義務があるので答えられません。」

と言えば、答えなくてもいいのかどうか?

 

そんなとき税務署職員はこう言います。

「税務署職員も守秘義務がありますから大丈夫です。」

 

その根拠として、

税務調査時に、司法書士が守秘義務を理由として、

回答拒否をしたことを違法とされた判決があります。

またAIに解説してもらいました。

 

繁忙期につき、手抜きをご容赦ください。(>_<)

 

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1. はじめに:法廷の裏側で動く「もう一つの調査」

裁判が始まれば、原告と被告は「民事訴訟法」という共通のルールの下、対等な立場で証拠を出し合う――。私たちは直感的にそう考えがちです。しかし、相手が「国」であり、かつ事案の背後に「税金」が隠れている場合、この公平なはずの土俵には、国側だけが使える強力な「武器」が持ち込まれます。

それが、所得税法に基づく「質問検査権」です。通常、民事訴訟(国家賠償請求訴訟を含む)における証拠収集は、文書提出命令などの裁判所を通じた手続きが必要ですが、税務当局はそれとは全く別ルートの、行政上の強力な権限を裁判の最中に行使できるのです。

過去の判例(東京高裁平成9年3月19日判決等)を分析すると、この権限がいかに広範であり、専門職の守秘義務や「裁判上の公平性」という壁さえも容易に突破していく実像が浮かび上がってきます。

2. 「国税訟務官」という聞き慣れない官職の正体

税務調査を行うのは、税務署の調査官だけではありません。訴訟が始まると、法廷の主役として「国税訟務官(こくぜいしょうむかん)」という官職が登場します。

所得税法234条1項は、調査の主体を「国税庁、国税局又は税務署の当該職員」と定めています。一見すると現場の調査官を指すように思えますが、判例はこの範囲を極めて広く解釈しました。

「右の『当該職員』には、大蔵省組織規程128条1項、2項により各国税局課税部に置かれる国税訟務官と国税訟務官室の職員を含むものと解される。」

つまり、裁判の追行を専門とする訟務官であっても、「適正な課税処理の実現」という目的がある限り、現場の調査官と同じ強力な調査権を行使できるという理屈です。訴訟の司令塔が、同時に強力な捜査権限まで併せ持つ。これが国側の持つ圧倒的なアドバンテージの源泉となります。

3. 「裁判が始まってから」でも調査は終わらない

多くの人が驚くのは、その権限が行使される「時期」と「目的」のボーダレスさです。

通常、一度課税処分が確定し、それに対する争い(国家賠償請求訴訟など)が始まれば、国も一当事者として民事訴訟法の枠内で戦うべきだと考えられます。しかし、判例は「民事裁判のルール」よりも「適正な課税の実現」という行政上の目的を優先させました。

所得税法234条1項は、調査の必要性があるときと規定しているのみで、種類や目的、時期を限定していません。そのため、たとえ「国家賠償請求訴訟(民事訴訟と同種)の追行のために必要である」という理由であっても、過去の事項に遡って調査を行うことが適法と認められたのです。

国は民事裁判で不利にならないよう、税法上の特権を「証拠集めのショートカット」として利用できる。この一方的な力関係こそが、税務訴訟の知られざる現実です。

4. 司法書士の「守秘義務」を突破する税法の壁

この強力な調査権は、専門職が負う「守秘義務」という砦さえも無力化します。

ある事件では、国税訟務官室の職員が司法書士に対し、登記業務に関わる領収書の内訳について電話で回答を求めました。司法書士側は「司法書士法11条」に基づき、業務上知り得た事実を漏らしてはならない義務を負っていますが、判例はこれを次のようなロジックで退けました。

「当該職員についても同様の守秘義務が課されており(国家公務員法100条1項)、当該職員に対する告知が当然に漏洩とはならないことにかんがみると、……右質問に応じて回答することは司法書士法11条所定の秘密保持義務に違反するものではない」

いわば「公務員同士の閉じた輪(Closed-Loop)」の中での情報のやり取りであれば、外部への漏洩には当たらないという考え方です。この「守秘義務の連鎖」によって、専門職の裁量は事実上剥奪され、税務当局からの問いに答えることが「正当な義務」へと塗り替えられてしまいます。

5. 「電話一本」で作られる証拠の舞台裏

実際の調査がどのように行われたか、その具体相は驚くほど簡素でありながら、緻密です。

石倉事務官(訟務官室所属)が行った調査は、司法書士への「電話」でした。しかし、そこで作成された「電話聴取書」は、単なる通話記録ではありませんでした。

• 調査の必要性: 建物が「1990年11月」に既に取り壊されているにもかかわらず、その後の「1990年12月」に売買を原因とする移転登記がなされているという、実態と登記の致命的な矛盾を解明するため。

• 証拠の合成: 司法書士が電話で回答したのは、領収書の宛先と内訳(登録免許税や報酬額)という基礎データのみでした。しかし石倉事務官は、自身が閲覧した「閉鎖登記簿謄本」の内容(建物の構造や床面積など)を、司法書士の回答と組み合わせて一つの「聴取書」として合成・集約し、裁判所へ提出したのです。

形式的な書類提出命令を待つまでもなく、「電話一本」と「権限による資料照会」を組み合わせることで、国側は自分たちに有利な証拠を迅速に作り上げることが可能になります。

6. 結び:公平な裁判か、適正な課税か

「税法は、非税務訴訟においても常に背後に潜む影である」――。これが本事案から得られる最大の教訓です。

国を相手に損害賠償を求めて戦うとき、原告は「民事訴訟法の公平なルール」を期待します。しかし国側は、その背後で所得税法という「行政上のマスターキー」を使い、あなたの過去の取引や、関与した専門職(司法書士や税理士など)の情報を一方的に引き出すことができます。

「適正な課税の実現」という大義名分は、訴訟における「対等な武器」という原則をもしばしば凌駕します。もしあなたが国と争う決断をするならば、民事裁判の枠組みを超えた、行政権力の広大な触手が及ぶことを覚悟しなければなりません。

法の下の平等と、行政の調査権。この二つが衝突する最前線において、私たちの権利がどこまで守られるのか。この判例は、行政権力が持つ「静かな、しかし圧倒的な暴力性」を私たちに突きつけています。

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