土地をもらい、贈与税を納めた後で、根抵当権が実行された場合(名古屋高裁S55.10.29)

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他の人の根抵当権がついている土地をもらい、

そのもらったことに対する贈与税を納めました。

 

しかし、その後、その他の人が経済的に苦しくなり、

根抵当権が実行されて、

もらった土地は競売に出されてしまいました。

その結果、手元に残ったお金はわずか。

 

「もらった土地は結果的に価値がなくなったから、

その分、贈与税をまけてよ!」という主張、

この主張は認められるのかどうか?

 

そんな裁判がありました。

AIに解説してもらいました。

 

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土地をもらった後に「競売」になっても税金は安くならない?驚きの裁判例から学ぶ教訓

1. 導入:親切心が「増税」を招く?不動産贈与の意外なリスク

「祖父から土地を譲り受けた」――。一見すると、若者にとってこの上ない幸運に思える出来事です。しかし、その土地に多額の借金の担保(根抵当権)が設定されていたとしたら、その「贈り物」は途端に牙を剥くことになります。

今回ご紹介するのは、ある若者が祖父から贈与された土地を、後に借金の担保実行(競売)によって失ってしまった実例(名古屋高裁判決)です。戦略的な視点から見れば、これは単なる不幸な事故ではありません。土地を失い、手元にはわずかな還付金しか残らなかったにもかかわらず、税務署は「贈与を受けた当時の時価」を基準に、還付金とほぼ同額の贈与税を課したのです。

土地は消え、税金だけが残る。この不条理とも思える結末の裏には、税法の冷徹なロジックと、贈与という「契約」の重みが隠されています。なぜ専門家の目から見て、この贈与は「失敗」だったのか。その教訓を解き明かします。

2. 【重要】「根抵当権」があっても土地の評価額は下がらない

多くの人は、「1億円の土地でも、8,000万円の担保(根抵当権)が付いていれば、価値は差し引き2,000万円だろう」と考えがちです。しかし、贈与税の世界ではその直感は通用しません。

裁判所が示した贈与税評価の原則は、極めて厳格です。

  • 債務引受がない限り差し引けない: 贈与された土地に根抵当権が設定されていても、受贈者(もらった人)がその債務を自分の借金として引き受ける「債務引受」の手続きを適正に行わない限り、評価額から債務額を差し引くことはできません。
  • 根抵当権は「流動的」なもの: 本件のような根抵当権は、債務額が確定していない「枠」の担保です。税務当局は、贈与の瞬間に債務がいくらであろうと、受贈者が直接その支払義務を負わないのであれば、土地そのものの交換価値に課税するというスタンスを崩しません。

相続税法第22条には、評価基準について次のように判示されています。

「贈与に因り取得した財産の価額は、当該財産の取得のときにおける時価により……当該財産の価額から控除すべき債務の金額はその時の現況による」

税法上の「時価」とは、贈与を受けた瞬間の客観的な交換価値を指します。将来、その担保が実行されて土地を失うリスクという「不確定な要素」は、その時点の時価には一切反映されないのです。

3. 「後出しジャンケン」は通用しない:競売後の「逆転」が不可能な理由

この裁判で、控訴人(若者)は「贈与の数年後に土地が競売され、実質的な利益は還付された約50万円(498,314円)しかなかったのだから、高額な税金は無効だ」と主張しました。

しかし、ここでの数字の対比は残酷なものでした。

  • 税務署の評価額: 約219万円(2,192,680円)
  • 課された贈与税等: 約43万円(432,200円 + 加算税・延滞税)
  • 最終的に手元に残った金員: 約49万円(498,314円)

つまり、最終的に得た利益のほとんどが、過去の「幻の時価」に対する税金として消えてしまう計算になります。裁判所がこの訴えを退けた理由は、行政処分の「法的安定性」にあります。

  • 「成立時」の瑕疵のみが問題: 行政処分が無効になるのは、その処分がなされた瞬間に「重大かつ明白な瑕疵」があった場合のみです。数年後に競売が実行されたという「後から生じた事情」で、過去の確定した税額が覆ることはありません。
  • 所有権の享受: 贈与から競売までの数年間、控訴人はその土地の所有者として君臨していました。法律は、その期間の「所有という権利」を重視し、後の経済的損失による精算を認めないのです。

4. 未成年者でも特別扱いはなし:求償権という「価値なき資産」

控訴人は当時未成年であり、借金をしていたのが親族企業であったことも、裁判所の判断を揺るがすことはありませんでした。控訴人は「会社は破産しており、肩代わりした分を返せという権利(求償権)は紙クズ同然だ」と訴えましたが、裁判所は法の論理で対抗しました。

  • 控訴人の主張: 主債務者(親族企業)は破産しており、求償権の行使は事実上不可能。実質的な利益は競売の還付金のみである。
  • 裁判所の判断: 求償権の行使が事実上困難であっても、それは単なる「経済的事情」に過ぎない。税制上の救済義務を認める理由にはならない。
  • 控訴人の主張: 未成年者が父の会社に求償権を振りかざすのは現実的ではなく、本件は実質的な「負担付贈与」として扱うべきだ。
  • 裁判所の判断: 明確な債務引受がない以上、負担付贈与とは認められない。求償権という「権利」を取得した以上、その回収可能性は税額計算とは切り離して考えるべきである。

法的には、たとえ相手が破産していても「お金を返せと言える権利(求償権)」が発生した時点で、それは価値ある資産を取得したとみなされます。この「絵に描いた餅」を資産として数える冷徹なロジックこそが、税務戦略において最も恐れるべきポイントです。

5. 救済措置は「所得税」にしかない:贈与税が持つ「一度きり」の厳格さ

本件の地裁判決(高裁も支持)では、所得税との対比という非常に興味深い視点が提示されています。

実は、所得税(譲渡所得)の世界では、物上保証人が競売で資産を失い、かつ債務者から代金を回収できない場合、その回収不能額を「なかったもの」として計算し、税負担を軽減する救済規定(所得税法第64条第2項)が存在します。

しかし、贈与税にはそのような修正規定は存在しません。裁判所は次のように断じ、贈与税における救済の格差を肯定しています。

「(所得税法等で救済がある以上)贈与税賦課処分について重ねて何らかの救済を認めるべき必要性はなく、これを是正すべき実質的理由もないというべきである。」

所得税が「期間内の経済的果実」を捕捉するのに対し、贈与税は「財産を取得したという一瞬の事実」に課税します。一度成立した贈与というドラマが、その後どのような悲劇に終わろうとも、税務署は幕引き後のシナリオには関知しないのです。

6. 結論:私たちは「時価」の真実を理解しているか?

今回の事例が私たちに突きつける教訓は明確です。「もらえるものはもらっておこう」という無防備な善意が、時として人生を狂わせる「鎖」に変わるということです。

この事態を避けるための戦略的な選択肢は、かつて存在しました。例えば、単なる贈与ではなく、明確に債務を引き継ぐ「負担付贈与(ふたんつきぞうよ)」として契約を構成していれば、税務上の評価額を債務相当額だけ引き下げられた可能性があります。しかし、その法的な手続きを怠ったがために、彼は「幻の価値」に対して全額の納税義務を負うことになりました。

  • 時価の絶対性: 税務上の「価値」は、あなたの手元に残った金額ではなく、契約した瞬間の市場価格で決まります。
  • タイミングの残酷さ: 贈与を受けた後、どれほど理不尽に財産を失っても、一度発生した納税義務は消えません。

あなたが今日、誰かから受け取ろうとしている「贈り物」。それは本当に、あなたを豊かにするものでしょうか? 担保付きの物件を譲り受ける際は、その瞬間に「時価相当の納税リスク」を背負う覚悟があるか、あるいは適切な法的防護策(債務引受等)を講じているか、今一度問い直してください。

法的な知識なき贈与は、時に受け取った者にとって、10年後の自分を縛り上げる重い鎖になりかねないのです。

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普通は、根抵当権や抵当権のついている土地を

買ったりもらったりなどすることはありません。

この裁判の場合、借金をしていたのは親族企業だったようです。

なので、一般の方では想定しにくい特殊ケースですね。

誰かの担保に入っている土地を、

買ったりもらったりすることはほとんどないと思いますが、

そんな話を持ちかけられたら注意してください。