税務調査時にビデオ撮影して青色申告取消しになった事案(京都地裁H18.10.27判決)
野々市・金沢・白山市を中心に活動している「かわした税理士のブログ」へようこそ!
超繁忙期です。
昨日は疲れ果てて泥のように寝入りました。
さて、
税務調査の様子を「証拠を残すため」でビデオ撮影してもいいのか?
税務署員がそれを拒否するのはどんな理由か?
それが理由で税務署員が帳簿確認ができないと判断したらどうなるか?
そんな裁判がありました。
また、AIに解説してもらいました。
=====
1. イントロダクション:あなたの「常識」が覆る税務調査の落とし穴
「帳簿は金庫に保管してある。調査官が来ても、目の前の机に出せば文句はないはずだ」――もしあなたがそう考えているなら、その「常識」は非常に危険です。帳簿が物理的に存在し、納税者がその場に座っていたとしても、税務署から「帳簿がない」とみなされるケースがあるからです。
今回取り上げるのは、京都地裁から大阪高裁、そして最高裁まで争われた衝撃的な判例です。この事案の納税者は、調査官の目の前に帳簿を積み上げていました。しかし、最終的には「帳簿の提示拒否」と判断され、青色申告の承認取消と消費税の仕入税額控除の否認により、3,000万円を超える追徴課税を課されることになったのです。
なぜ、目の前にある帳簿が「法的に存在しない」と扱われたのか。そこには、事業者が決して軽視してはならない「帳簿保存」の真の義務と、税務職員が持つ広範な「裁量権」の壁が立ちはだかっています。
2. 【衝撃の事実1】「物理的にある」だけでは「保存」とは認められない
多くの事業者は、帳簿を紛失せずに持っておくことが「保存」だと誤解しています。しかし、消費税法30条7項が定める「保存」の定義は、司法の場ではるかに厳格に解釈されています。
裁判所は、帳簿の保存について次のように明示しました。
「税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は……帳簿等を保存しない場合に当たり……仕入れに係る課税仕入れ等の税額については、適用されない」
つまり、法的な意味での保存とは、単に保管することではなく、「税務職員による適法な検査に対し、いつでも内容を確認できる態勢で提示できること」を指します。本件の納税者は、帳簿を机に出してはいたものの、後述する独自の条件を調査官に突きつけたことで、実質的に「内容の確認」を妨げました。
この結果、最も重い代償となったのが「仕入税額控除の否認」です。日本の消費税制度は、インボイス(適格請求書)がない時代から、帳簿の保存を控除の絶対条件とする「帳簿方式」を採用しています。提示を拒むことは「保存していない」と同義であり、たとえ数億円の仕入れ実態があっても、1円も経費として差し引けなくなるのです。3,000万円という追徴額の多くは、この控除否認によって生み出されたものです。
3. 【衝撃の事実2】「16人の監視」や「ビデオ撮影」は調査拒否になる
この事件で納税者が帳簿の提示と引き換えに要求したのは、「調査風景のビデオ撮影」と、税理士以外の「16名もの第三者(所属団体の会員ら)」の立会いでした。北部屋に三脚で固定されたカメラを設置し、多数の支援者が取り囲むという、極めて異様な、いわば「ホスト(納税者)側の独自ルール」が支配する環境です。
裁判所は、このような状況下での調査拒否を「適法な裁量の範囲内」と認めました。その根拠は、税務職員が負う国家公務員法100条1項等の「守秘義務」にあります。
「税理士以外の法律上守秘義務を負わない第三者の立会いを認めるかどうかは、原則として、税務職員の裁量に委ねられている」
たとえ納税者本人が「自分の秘密が漏れても構わない」と同意したとしても、守秘義務は解除されません。調査プロセスには、税務署側の調査手法や他者のデータが含まれる可能性があり、それらは国家秘密として守られるべきだからです。16名もの第三者が無秩序に発言し、ビデオで記録されるような「平穏な検査が不可能な態勢」は、法的には提示を拒否しているのと変わらないと断じられたのです。
4. 【衝撃の事実3】「抜き打ち調査」も「理由の不開示」も完全に適法である
納税者の中には「事前通知のない調査は違法だ」「納得できる理由を言わなければ協力しない」と主張する方もいます。しかし、本件でも争われた通り、裁判所の判断は極めてドライです。
所得税法234条1項に基づく質問検査権において、以下の点は税務職員の「合理的な選択(裁量)」に委ねられています。
• 事前通知の有無: 抜き打ち調査は法律上、一律に禁止されているわけではありません。
• 具体的理由の告知: 「申告内容の確認」という概括的な理由説明で十分であり、個別の疑義を事前に開示する義務はありません。
納税者が求める「誠実な説明」と、法的な「調査の適法性」の間には大きなギャップがあります。自身の正義感に基づき「納得できないから見せない」という態度を取ることは、法的な防御態勢を自ら崩す行為に他なりません。
5. 【衝撃の事実4】「所得」を機械的に決められる推計課税の恐怖
調査への協力拒否が招く最終的な破滅、それが「青色申告承認取消処分」です。
所得税法150条1項1号は、帳簿の備付けや保存が財務省令に従っていない場合、承認を取り消せると定めています。本件では、帳簿を提示できる態勢になかったことが「保存の不備」とみなされ、青色申告の特典がすべて剥奪されました。
さらに恐ろしいのは、その後の「推計課税」です。帳簿が法的に「存在しない」とされるため、税務署は納税者の実額を無視し、統計的に税額を算出します。本件で大阪国税局が用いた手法は極めて冷徹でした。
• 同業他社のデータ流用: 管内の大津、草津、枚方など近隣15税務署から、業種・規模が類似する8〜13件の同業者を抽出。
• 平均所得率の適用: それら同業者の平均的な「所得率」を納税者の売上に掛け合わせ、機械的に利益を算出。
一度この推計プロセスに入ると、納税者側が「うちは赤字だった」「大口の倒産があった」と主張しても、それを証明する「有効な帳簿」が提示できない以上、反論は事実上不可能です。
結び:正義感よりも「法的態勢」を
本件の納税者は、自らの権利を守ろうとする強い意志があったのかもしれません。しかし、司法が下した結論は「マイルールの強要は、法的義務の不履行である」という厳しいものでした。
税務調査における最強の盾は、独自の理論や威圧的な立会いではなく、「法的に有効な保存(=いつでも正々堂々と提示できる態勢)」です。税務職員には調査方法を決定する広範な裁量権があり、それに反旗を翻すことは、3,000万円もの代償を支払うリスクを伴います。
最後に、ご自身の胸に手を当てて確認してみてください。
「あなたの帳簿は、明日税務職員が訪ねてきたとき、法的な意味での『保存』ができていると言い切れますか?」
「提示を拒む条件」を考える時間は、今日で終わりにしましょう。
=====


